はじめに

Shopifyの管理画面に、見慣れないバナーが突然表示されて戸惑った方も多いのではないでしょうか。

  • 「従来のお客様アカウントが廃止される」と聞いたが、何が起きているのかわからない。
  • 移行すると自分のストアの何が壊れるのか知りたい。
  • カスタマイズしたマイページやログイン周りを、できるだけ安全に移したい。
  • 切り替えで既存のお客様のパスワードやログインがどうなるのか不安。

このような方のための記事です。

この記事では、2026年2月に発表された従来のお客様アカウントの廃止について、移行で具体的に何が変わるのか、データやパスワードはどうなるのか、そして実務で事故を起こさないための進め方を、構築者目線で解説します。

何が起きたのか

2026年2月26日、Shopifyは従来のお客様アカウントを正式に非推奨化しました。

新規ストアと、これまで使っていなかった既存ストアでは利用できなくなり、機能追加と技術サポートも終了しています。

最終的な廃止日は2026年中に告知される予定で、それ以降は従来のテンプレートが編集ロックされ、最終的に削除されます。

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「非推奨」という言葉は曖昧に聞こえますが、実務上の意味ははっきりしています。

今は動いていても、バグ修正もセキュリティパッチも止まり、いずれ完全に止まる、ということです。

先送りするほど、最後に時間に追われて移行することになります。

さらに2026年4月からは、カスタマイズがほぼないシンプルなストアを対象に、Shopifyによる自動アップグレードが順次始まっています。

対象になると当日に通知が届き、30日以内であれば元に戻せます。

逆に言えば、複雑な構成のストアほど自分の意思とタイミングで計画的に移行する必要があります。

新しいお客様アカウント自体は突然登場したものではありません。2024年には選択肢として提供が始まっており、世界規模で移行が進んできました。2025年5月のShopify Editions時点で、世界のストアの63%がすでに移行済みだったという報告もあります。

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従来と新しいお客様アカウントの違い

一番大きく変わるのは認証方式です。

従来のお客様アカウントは、メールアドレスとパスワードでログインする仕組みでした。アカウントページは customers/account.liquidcustomers/login.liquid といったLiquidテンプレートでできており、テーマ内で自由にカスタマイズできました。

新しいお客様アカウントは、メールアドレスに届く6桁のワンタイムコードでログインするパスワードレス認証が基本です。内部的にはOAuth 2.0という標準的な認証方式を採用しており、ソーシャルログインにも対応します。

一度ログインすると、ログイン状態は365日間保持されます。

外部記事help.shopify.com

ここで構築者として理解しておくべきなのは、新しいお客様アカウントはもはや「テーマの中のLiquidテンプレートの集まり」ではなく、Shopify側で管理される基盤になった、という点です。カスタマイズの考え方が根本的に変わります。

移行で影響が出ること

自分のストアがどこに該当するか、順に確認してください。

複数該当する場合は、トグルひとつで終わる作業ではなく、移行計画が必要です。

テーマのLiquidカスタマイズは引き継がれない

マイページやログイン画面をLiquidで作り込んでいた場合、そのカスタマイズは新しいお客様アカウントには引き継がれません。従来のポップアップ式ログインも廃止されます。デザインの作り込みは、後述するアプリやUI拡張で作り直すことになります。

カスタム登録フィールドと登録フォーム

名前・メール・住所以外の独自項目を集めていた場合、そのままでは移行できません。

新アカウントでは、ログイン後にUI拡張やアプリで追加情報を収集する形になります。

特に重要なのが、新アカウントではログインやチェックアウトの前に登録フォームを必須にすることがサポートされていない点です。

会員登録を入口で必須にしていたストアは、フローそのものの見直しが必要になります。

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Multipassは廃止される

外部サイトからShopifyへログイン状態を引き渡すMultipassは、新しいお客様アカウントでは非対応です。

代わりに、Shopify Plusでは独自のIDプロバイダー連携(OktaMicrosoft Entra IDGoogleAuth0など)、ヘッドレス構成ではCustomer Account APIによる認証保持に作り替えます。

ヘッドレス・カスタムストアフロント

Storefront APIの顧客スコープmutationcustomerCreatecustomerUpdatecustomerAccessTokenCreate など)が非推奨化されます。

認証と顧客スコープの操作はCustomer Account APIへ移行してください。

外部記事Customer Account API referenceCustomer Account API reference

連携アプリの対応状況

旧アカウントに接続していたアプリ、たとえばロイヤルティ、サブスクリプション、アカウント紐付け型のウィッシュリスト、会員限定コンテンツのロック、B2B登録フォームなどは、新しいお客様アカウントに対応するための更新や再設定が必要です。

多くの主要アプリはすでに対応済みですが、すべてではありません。実際にアプリを開発している立場から言うと、ここが一番見落とされやすく、移行後に「ポイントが表示されない」「会員価格が出ない」という事故につながります。

移行前に、使っているアプリすべての対応可否をベンダーに確認してください。

Flowオートメーションと顧客セグメント

意外と知られていない影響がここです。customer_account_status をトリガーにしたFlow、たとえば初回ログイン時のタグ付けやウェルカムメールは、新しいお客様アカウントではサポートされません。

同様に、customer_account_status に基づく顧客セグメントも従来アカウント専用です。

アカウント状態を起点にした自動化を組んでいる場合は、移行前に棚卸しが必要です。

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逆に得られること

ネガティブな話が続きましたが、新しいお客様アカウントへの移行は、機能面では明確なアップグレードです。

ストアクレジット、セルフサービス返品、ネイティブなB2B会社アカウント(会社単位のログイン管理・専用カタログ・支払い条件)が標準でサポートされます。これらはShopifyが新システムに集中して投資している領域で、今後の機能追加もこちら側に乗ります。

また、Shopify公式によると、すでに800以上のアプリがCustomer Account UI Extensionsに対応済みで、新しいお客様アカウントはすでにShopifyマーチャントの70%以上が利用しています。エコシステムはすでに新システム側に移っている、というのが実態です。

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パスワードレス認証は、パスワード忘れによる離脱や問い合わせを減らせるため、コンバージョンの観点でもメリットがあります。

移行でデータとパスワードはどうなるか

まず、データは失われません。

注文履歴、プロフィール、住所、登録情報は、新しいお客様アカウントにすべて引き継がれます。

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ログイン方法だけが変わります。

これまでのパスワードは不要になり、お客様はメールアドレスに届く6桁のコードでログインします。

お客様は同じメールアドレスで、これまでと同じ自分のアカウントにアクセスできます。

つまり、新アカウントへ進む方向の移行は、データもログインも安全です。

問題は「戻すとき」です。

Shopifyはアップグレード後30日以内ならrevert(従来に戻すこと)できる仕様にしています。

ただし、アップグレード時にパスワードのデータが保持されるのか、revert後にお客様が以前のパスワードでログインできるのかは、公式ドキュメントに明記がありません。実際にShopifyサポートへ問い合わせて確認しましたが、「ドキュメントに記載がない」という回答でした。

なので、30日revertを「いつでも元に戻せる安全網」として過信しないでください。

これは緊急時のロールバック手段であって、気軽に試して戻すためのものではありません。

本番ストアを切り替えた瞬間、すべての既存顧客のログインがコード方式に変わります。

そして戻したときにパスワードが使える保証はない、ということです。

安全な移行の進め方

事故を避けるための進め方です。順番が重要です。

1. 現状を監査する

今のアカウント体験で何をしているかを洗い出します。

カスタマイズしているテンプレート、連携アプリ、独自の登録項目、アカウント状態を起点にしたFlowや顧客セグメント、外部連携を書き出してください。

2. アプリの対応を確認する

洗い出したアプリそれぞれが新しいお客様アカウントに対応しているかをベンダーに確認します。会員ロック、ロイヤルティ、サブスク、ウィッシュリスト、B2B登録フォーム系は特に念入りに確認してください。未対応のものは、代替アプリかUI拡張での作り直しを検討します。

3. 新アカウントを設定する

新しいお客様アカウントの見た目やアプリは、テーマエディタではなく「チェックアウトとアカウントのエディタ」で設定します。

ブランディング、アプリブロックの配置、ログイン方法(メールOTPShopログイン、GoogleFacebookなど)をここで整えます。

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4. 既存顧客へ事前に告知する

ログイン方法がパスワードからメール+コードに変わるため、事前の告知で問い合わせを減らせます。

「次回からはメールに届くコードでログインします」「必ず以前ご登録のメールアドレスでログインしてください(別のアドレスだと新規アカウント扱いになります)」と伝えるのがおすすめです。

5. アップグレードする

設定 → お客様アカウントの「アップグレードする」で切り替えます。

この瞬間に、既存のお客様のログインがコード方式に変わります。データは保持されます。

6. 切替後に監視する

ログイン関連の問い合わせやエラーを監視します。準備と検証を済ませていれば、ここで大きな問題は起きにくいはずです。

構築者・開発者向けの実装メモ

役割別に、公式が示している移行先を整理します。

テーマを作る場合は、従来のお客様アカウント用Liquidファイルをテーマに含めないようにします。

新しい shopify-account Webコンポーネントを使えば、最新のお客様アカウントへ自動でリダイレクトされます。

従来ファイルを持たないテーマに切り替えると、そのストアは自動的に最新のお客様アカウントへアップグレードされます。

外部記事Account componentAccount component

アプリを作る場合は、Liquidテンプレートをいじらずに済むCustomer Account UI Extensionsを使います。

注文状況・注文一覧・プロフィールといったネイティブページの拡張から、独自のフルページ体験まで構築できます。旧アカウントのLiquidページに依存したアプリは、新しいお客様アカウントのストアでは動きません。

外部記事Customer account UI extensionsCustomer account UI extensions

カスタムストアフロントを作る場合は、顧客スコープのデータと認証付き操作のソースとしてCustomer Account APIを使います。Storefront APIの顧客スコープmutationを使っている既存実装は、できるだけ早く移行してください。

さいごに

従来のお客様アカウントの廃止は、避けられない移行です。

押さえるべきポイントは次のとおりです。

データは移行で失われず、ログインがメール+コードに変わるだけ。新アカウントへ進む方向の移行は安全です。

ただし30日revertは緊急時のロールバックであって、パスワードの挙動が公式に未確認なため、気軽なテスト手段にはなりません。検証は実顧客のいない開発ストアで行ってください。

複数のカスタマイズ・Multipass・ヘッドレス・B2B・アカウント状態起点のFlowに該当するなら、計画的な移行が必須です。

「自分のストアはどのパターンに当てはまるのか」「移行作業をどこまで自分でやるべきか」の切り分けだけでも、早めにやっておくと安心です。移行や影響範囲の調査については、お問い合わせからお気軽にご相談ください。